徐々に春が近づいているとはいえ、まだまだ寒いこの時期。
屋内で過ごす時間が長くなると、どうしても座って過ごす時間が増え、身体を動かす活動が減ってしまう。
こうした身体活動と住宅の温熱環境の関係について、スマートウェルネス住宅等推進調査委員会・研究企画委員会が、興味深い研究成果を発表している。
座り過ぎは寿命を短くする
室内で過ごす時間が増えると、テレビの視聴やパソコンでの作業、読書など座って過ごす時間が長くなりがちだ。
快適な過ごし方に思える座位時間だが、長くなることで死亡リスクの上昇につながるようだ。
テレビの視聴時間と死亡リスクの調査結果にそれが表れている。
※1時間以内を1とした視聴時間ごとの死亡リスクのハザード比。横軸は視聴時間。
視聴時間が1日7時間以上の場合、1時間以内に比べて総死亡リスク(すべての原因による死亡リスク)は約60%高く、心血管疾患の死亡リスクでは85%も高い。
座り過ぎは、私たちの寿命を蝕む要因になっていると言える。
日本人の座位時間は世界屈指の長さ
日本人にとって驚きの調査結果がある。
世界20カ国・地域の平日1日当たりの座位時間を比較すると、日本は420分で世界平均(300分)を大きく上回る。これはサウジアラビアと並び最長だ。
コタツの使用や非居室が寒い日本の住宅
屋内で過ごすことが増える冬は、住宅内で少しでも身体を動かすようにし、座り過ぎを抑制することが重要になる。
しかし、日本ではコタツの使用や脱衣所などの非居室が寒い住宅が多い。
コタツの使用は座位姿勢を促し、非居室が寒いと居間で過ごす時間が増える上に、移動や脱衣に対する身体的苦痛や心理的抵抗から、座位行動の助長につながっているのではないか。
この問題について次のような調査結果がある。
コタツ使用や非居室の寒さが身体活動に及ぼす影響
「コタツを使用する場合、しない場合」「脱衣所を暖房する場合、しない場合」の住宅内の座位行動の差について、4年にわたる調査データから3,482名を分析した結果がある。
「コタツ使用なし(コタツ以外の暖房を使用)」は「コタツ使用あり」に比べ、座位時間が男性で-6分/日、女性で-8分/日と減少し、逆に身体活動は男女ともに増えている。
また、「脱衣所暖房あり」は「脱衣所暖房なし」より男性-5分/日、女性-8分/日で、身体活動についてもコタツの場合と同様の傾向を示した。
「コタツ使用なし」「脱衣所暖房あり」は、座位行動を抑制し、身体活動を促すと言えるだろう。
座位行動抑制にとって重要な住宅の温熱環境
この研究結果から、死亡リスクを高める座位行動を抑制する上で、住宅の温熱環境が鍵を握っていることがわかる。
つまり、省エネルギーの観点からも「住宅の断熱性能を高めること」が重要と言える。
断熱性能の低い住宅については、「暖房を適切に使用し、居室と非居室を暖かく保つことで、座位行動を抑制し、身体行動を促進させる可能性がある」との知見が示され、あわせて以下の方法が提案されている。
・居間などの居室 – 局所暖房を使用せず、部屋全体を暖める暖房を適切に使用
・脱衣所やトイレなどの非居室 – 寒さを我慢せず暖房を使用、滞在時だけでも暖房を使用
コロナ禍で住宅内の座位行動抑制がますます重要に
さらに、長引くコロナ禍が私たちの身体活動の減少にも影響している。
WHO(世界保健機関)によるパンデミック宣言後、世界各国・地域の1日当たりの平均歩数が10日間で5.5%(287歩)、30日間で27.3%(1432歩)減少した、との調査結果もある。
収束が見通せない一方で、テレワークの拡大など働き方の変化に伴い在宅時間が増えている。
こうした中で座位行動を抑制するには、住宅の断熱性能を高め、適切な温熱環境を実現することが、より一層重要になるだろう。
◆出典/スマートウェルネス住宅等推進調査委員会・研究企画委員会発表資料(2021年1月26日)
※図表も上記資料をもとに作成