カーボンニュートラルに向けた動きが加速しつつある。
先月2月24日に行われた『第5回 再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース』の様子がYouTubeでもLIVE配信され、大きな関心を呼んでいる。
菅総理大臣が「2050年のカーボンニュートラル実現」を宣言したのが、2020年10月26日。
地球温暖化対策で世界に遅れを取っている日本だが、この菅総理の宣言は「いよいよ待ったなし」という機運の高まりをもたらした。
しかし、機運の高まりだけでは事は進まない。スピーディで具体的な取組みを実行できなければ、「2050年カーボンニュートラル」は絵に書いた餅に終わってしまうだろう。
“省エネと健康快適はセット”という力強いメッセージ
そうした危機感を持ったメンバーが構成員に名を連ねる『第5回 再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース』でも、具体的な実行計画と強力なリーダーシップを求める声が多くあがった。
非常に興味深い議論であり、また「従来型の政策では到底実現には至らないのではないか」という危惧も同時に抱くことになった。
この第5回のタスクフォースに参加していた東京大学大学院「前 真之」准教授の提言が秀逸だった。限られた短い時間の中で、問題提起と具体的な提言がなされている。
中でも、
「健康・快適は日本の全ての家で必ず実現すべき基本性能であり、オマケでも贅沢でもない!」
「健康・快適な暮らしを少ない電気代で実現するのが真の省エネ!」
「省エネは国民の命と人生にかかわる大問題!」
「今こそ住宅への集中投資で健康・快適な暮らしと脱炭素の一石二鳥を目指すべき!」
という明快な言葉は、非常に強いメッセージとしてこの議論の中核を成していた。
今動かなければいけないワケ
カーボンニュートラルの実現のためには「自然エネルギーの最大活用」と「省エネルギー」という両輪が大きなテーマとなるが、この会議では「省エネルギー」が担うポテンシャルの高さについて言及されていた。
言い換えれば、「省エネルギー」への取組み次第で日本におけるカーボンニュートラルの命運が決まる、ということだろう。
内閣府の特命担当大臣を務める河野太郎氏も「再生エネルギーをいくら頑張っても、省エネが疎かだったらカーボンニュートラルは達成できない!」「再エネを増やすとともに、省エネを徹底的にやっていかないと!」という考えを明言していた。
そして、その「省エネ」による効果が大きく見込める分野が“住宅”なのである。
⇒日本の住宅の約9割は無断熱を含む低断熱住宅。暖房等で多くのエネルギーを消費している。
2020年から施行されるはずだった「省エネ基準の適合義務化」が直前になって見送られ、「説明義務化」に留まってしまったりと、日本全体の住宅性能向上に向けた動きはとてつもなく鈍い。
2050年と言えば、あと30年。
住宅の寿命を考えると、今、性能の低い住宅がどんどん建っていってしまっては、2050年までの脱炭素化など夢のまた夢。
会議に参加していた有識者たちが声高に「今すぐにアクションを起こすべき」と叫んでいる理由はここにある。
地球環境のために。住む人の健康・快適のために。
暖かい住まいと健康との関連についてこれまでも多くの研究者の研究成果を紹介してきたが、2050年カーボンニュートラル宣言を契機に、省エネの面からも日本の住宅性能向上への期待が高まることは確実だ。
前先生の言う「省エネに熱心な “ピンの作り手” 」は日本各地にたくさんいる。
「新しい家づくりを全く勉強しない“キリの作り手” 」を守ろうとしているのではないかと揶揄された国交省をはじめ、各省庁には連携して最大限の省エネを実現するための環境を早急に整えてもらいたい。
脱炭素と健康快適な暮らしの実現のために、この会議においても重要なキーワードとして飛び交った “バックキャスティング”という考え方で、大きく舵を切るべき時が来たと言えるだろう。
今後の動向もしっかりと見届けていきたい。
※バックキャスティング・・・今できることを積み上げて目標に近づけていくフォワードキャスティングの対義語で、目標までのプロセスを明確にしてから今やるべきことを考えること。