前回の記事では、地球環境の変化とともに、年を追うごとに高まっている「熱中症」のリスクについて紹介した。
では、私たちの実際の生活環境には、具体的にはどのようなリスクが潜んでいるのだろうか。今回は、その一例について紹介していきたい。
マンション特有の室温変化が就寝中の熱中症を引き起こす
地球温暖化とヒートアイランド現象の相乗作用により、都心における熱中症搬送者数は年々増加の一途。しかも、屋内にいながらにして発症する高齢者の多さが大きな問題になっているが、これには日本の都心特有の住宅環境問題が大きく関係している。
多くの人が共同住宅・集合住宅に住まう都心。この共同住宅・集合住宅には鉄筋コンクリート造(RC造)の建物が多いが、このRC造は大きな熱容量を保有する特徴を有している。そのため、日中に蓄えた熱により夜間も室温が下がりにくく、就寝中の熱中症被害を引き起こす要因の一つになっていると考えられるのだ。
東京都墨田区のRC造共同住宅を対象とした実測結果によれば、外気温は15時を過ぎたところで頭打ちし頭打ちし、夕刻以降から翌日の明け方に向け順調に下がり続けていく。しかし躯体の表面温度はその後も上がり続け、中間部屋と角部屋の室温は冷房を切ったと思われる深夜0時から再び上昇に転じ、翌朝にまた冷房を入れるまで高い室温を保ったままとなっている。特にその温度変化は屋外からの影響を受けやすい角部屋で顕著となっている。
「夜は涼しいはず」という思い込みが招く危険
熱中症予防を目的にアメリカで提案された「暑さ指数」(WBGT/湿球黒球温度:Wet Bulb Globe Temperature)においても、実測された数値がいかに危険性をはらんでいるかがグラフ上で示されている。WBGTの値は、住民が不在である日中に最も危険な厳重警戒レベルに達しているが(外出時は冷房をしていないので当然の結果であるが)、次いで高い数値を示すのが住人が寝静まった深夜帯であることに注目してほしい。就寝中にタイマーなどで冷房が切られた後も、躯体に蓄えられた熱は室内へと放出される。そのため、睡眠中に自覚のないまま熱中症になる、という発症例が増えているのだ。
「夜は涼しくなってくるはずだから大丈夫」「冷房病予防のために、就寝時はエアコンをオフにするのが鉄則」。今までのこうした“あたりまえ”の認識が、大きな健康被害を引き起こす原因になりかねない。夏季の日射熱取得をうまく抑制しなければ、RC造の共同住宅・集合住宅には日中に大きな熱が躯体に蓄えられ、夕方から夜間にかけてもその熱が長時間にわたって室内に放出されるため、生命に危険を及ぼすレベルまで室温が上昇することがある。特に高齢の家族がいる場合は、このような点を認識しながら熱中症予防の対策を取っていくことが必要だ。
記事協力:法政大学 川久保 俊 准教授