住まいの暖かさの重要性についてはこれまでの記事でも伝えてきたが、他の先進諸国の状況はどうだろう。
寒い家は罰則の対象?先進国の取り組みとは
イギリスやドイツ、フランス、スウェーデンといった諸外国では、「暖かい家は『人権』である」という思想のもと、最低室温は18~23℃でなければならないと法令で規定されている。
特にイギリスでは、寒い家とそこに暮らす人の死亡率の関係について数十年にわたる調査を行い結果を分析しており、室温が16℃以下の場合、お年寄りには呼吸器疾患や心血管疾患などの大きな健康リスクがあるなど、寒い家の危険性を明確に指摘している。
また、室温を18℃以上に保てない賃貸住宅には改修・閉鎖・解体といった厳しい命令を下すこともできる。その他にも寒い家に住んでいる人は保険料が高い仕組みになっているなど、住まいの寒さを社会全体のリスクとして捉える姿勢が明確だ。
一方、わが国日本では、こうした先進諸国では当たり前の「室温規制」にあたるような法令は見当たらない。
日本の歴史が、寒い家を許してきた?
日本だけ「なぜ?」と思われたかもしれないが、これには日本固有の住宅政策の歴史が大きく関わっていそうだ。
終戦から復興期を経て昭和30年代に高度成長期へと突入した日本が直面した課題は「住宅不足」。
その後、乱立する建物の品質を高めるべく建物の防火性、そして地震大国として耐震性能の向上に力を入れる政策をとってきた。
たくさんの住まいを確保し、燃えにくく、倒れにくい住まいをつくる。幾度の建築基準法や関連法令の改正もそこに照準を当ててきた。それが、昭和そして平成という時代の現実であり限界だったのかもしれない。
社会全体で取り組む、暖かい家への未来
いずれにしても、日本の住宅性能を考えるとき「暖かさ」は、安全性という最優先課題のもと優先度が低い扱いとなっていたことは事実と言える。
実際、現在の日本の住宅はその約8割が無断熱もしくは低断熱だということが調査によって明らかになっている。
これまでは「快適性」の中でだけ語られていた寒さ・暖かさだが、他記事でも紹介している数々の研究で実証され始めているとおり、いまや住まいの暖かさは健康や命に係わる「安全性」の問題として考えなければならない局面を迎えている。
次世代基準の構築に向けて
暖かく暮らしやすい環境は、すべての国民にとっての基本的な権利。
国としても省エネ基準の更なる向上を目指して建築基準法の改正検討を進めるなどしているが、それらを待つだけでなく、住まい手自らが我が家の温度環境を見直すことがまず必要ではないだろうか。