ここ数年、夏になると「熱中症」によって倒れる人のニュースが大きく取り上げられる機会がとても多くなった。熱中症というと、運動会や部活など、暑い陽射しのもとにさらされて長時間運動を行った子供たちが搬送される、というイメージが強いが、近年では屋内にいながら、しかも高齢者の熱中症搬送者が著しく増加している。体温調節機能が低下している高齢者にとって、自覚のないまま気が付けば熱中症にかかっている、というリスクが高く、周囲の人々による注意喚起や予防のための環境整備が急務となっている。
10万人に迫る熱中症患者搬送者数。増加する暑熱“被害者”。
特に2018年は、それまでも年々増えつつあった熱中症による搬送者数が急激に増えた年。消防庁の発表によると、7月~9月の熱中症による救急搬送者数は9万3800人余りと、2008年(消防庁による救急搬送者数の公表初年)以降、最多となった。前年度の2017年と比べても約1.8倍と驚異的な増加であり、もはや災害レベルでの注意喚起が必要な事態である。
増加する高齢者。この“災害”リスクはますます高まっていく。
進行する地球温暖化は、この先も日本の夏をさらに暑くし続けるだろう。研究による最悪のケースでは、2100年の時点で東京では35℃を超える猛暑日が約40日、30℃を超える真夏日が約4ヵ月、日が沈んでも25℃を超える熱帯夜が約2ヵ月半続くだろう、と予測されている。
また、高温環境に対する抵抗力が弱っている高齢者数の増加は避けられざる未来であり、総人口における高齢者数の割合も増加の一途。2050年には40%に届こうか、という事態に突入する。来たるべき未来に対し、効果的な対策を講じられるのはまさに「いま」しかないといえるだろう。
住まいの改善が「暑熱災害」への最大のリスクヘッジ
熱中症のリスクをもはや被害が広がる事態を「災害」と捉え、特に高齢者の屋内での熱中症発症のリスクを軽減するには、住まいの環境を改善していくことが急務である。
屋内のどこにいても一定で快適な室気温・湿度を保てる環境をつくることは、住宅の断熱性の向上により効果的に行うことが可能。涼しい夏を実現することが、健康かつ長生きできる人生の基盤となるのである。
次回は、もう一歩踏み込んで、特に熱がこもりやすい「共同住宅」における暑熱環境の実態を紹介したい。
記事協力:法政大学 川久保 俊 准教授