1年で最も寒く、暖房が欠かせないこの時期。
しかし、この冬はいつもと様子が違う。
エネルギー価格の上昇を受けて、大手電力会社は相次いで電気料金の値上げを実施したり、国への申請や検討を行ったりしている。
一方で、発電に必要なエネルギーの安定調達への懸念から、国は昨年12月から全国規模の節電要請を開始した。
さまざまな物価の高騰が家計を圧迫する中、節電や節約が普段にも増して意識され、寒い冬の暮らしに影響を及ぼしている。
暖かく健康に冬を乗り切るにはどうしたら良いのだろうか。
「暖房の使用方法で節電対策」が多数との調査結果も
節電への意識や対応はどうなっているのだろう。
YKK AP株式会社が昨年、全国の20~60代の男女1105名を対象に実施し、12月に発表した「冬に発生する家庭内の課題と窓の関係についての意識調査」(※)が参考になる。
調査結果の「冬に感じる住まいの困りごと」の1位は、「暖房使用による光熱費の上昇」(52.9%)で、燃料費高騰の影響が見て取れる。
こうした現状に対して、何らかの節電対策を実施予定と回答した約7割の人に「どのような節電対策を実施しようと思っているか」尋ねたところ、利用時間の減少や設定温度の変更といった「暖房の使用方法で節電する」との回答が64.4%にのぼった。
しかし、暖房費の節約は健康リスクを高めることにつながりかねない。
住まいの寒さは血圧上昇などの健康リスクを招く
室温と健康リスクの関係については、当サイトでも折に触れて紹介しているように、さまざまな研究が進められている。
昨年2月に開催された「住宅の断熱化と居住者の健康への影響に関する全国調査 第6回報告会」(主催:一般社団法人 日本サステナブル建築協会)の資料から、血圧と室温の関係に焦点を当てて見ていきたい。
住宅の室温変化が特に大きいのは朝と夜の差。
男性、女性ともに起床時の室温が低くなるほど血圧は上昇する。
この傾向は調査対象のすべての年齢で見られたが、高齢になるほど室温低下と血圧の上昇の関係は顕著になる。
また、女性は男性に比べて血圧自体は低いものの、室温が低下するにつれて血圧の上昇幅は男性より大きくなる。
つまり、高齢者や女性ほど室温の影響を受けやすいと言える。
高血圧は脳卒中のような循環器病のリスクを高める。
他にも室温と過活動膀胱や睡眠障害の関係が指摘されるなど、室温の低い“寒い家”は健康リスクを高めることにつながってしまう。
断熱改修でリスクを回避
これらの健康リスクを回避するには、断熱改修などによって“暖かい住まい”を実現することが有効だ。
前述の報告会では、断熱改修により起床時の血圧が最高・最低ともに有意に低下したことが紹介されている。
また、高齢者や高血圧患者などハイリスクの人ほど血圧の低下量が大きくなることも示されている。
国の支援事業などを活用して“暖かい住まい”の実現を
健康リスクを低減し、暖房費の抑制にもつながる断熱改修だが、改修費用を心配する人は少なくないだろう。
省エネルギー住宅の普及拡大に向けた機運の高まりを背景に、住宅の断熱性能向上への行政による支援事業が打ち出されており、それらを活用すればコストを抑えて断熱改修を実現することができる。とくに2023年は、「住宅省エネ2023キャンペーン」と題された、国の大規模なリフォーム補助事業が開始した。
住宅省エネ2023キャンペーン(国土交通省・経済産業省・環境省)
中でも注目すべきは、住宅の熱の出入りが最も大きい「窓」の改修に対する補助メニューだ。
経済産業省・環境省による「先進的窓リノベ事業」では、断熱性能に優れた先進的な窓への改修に対し、一戸あたり最大200万円が補助される。
また、国土交通省の「こどもエコすまい支援事業」は、住宅の省エネ改修に一戸あたり最大30万円(子育て世帯・若者夫婦世帯は最大45万円)が補助され、子育て世帯・若者夫婦世帯がZEHレベルの住宅を新築する場合は一戸あたり100万円が補助される。
無理な節電や節約をして健康リスクを招き、医療や介護の費用負担が増加しては元も子もない。
省エネ・断熱改修に対する行政の補助制度がさまざま用意されており、それらを活用して暖かい住まいを実現し、寒い冬を健康で快適に過ごしたい。