室温と血圧の関連については、重要なテーマとして何度か取り上げてきた。
今回は断熱改修の前後で血圧にどのような変化が現れるのか、また、対象者の属性によってどんな差があるのかという研究成果を元に、改めて断熱改修がもたらすメリットについて考えてみたい。
部屋間を移動する際の急激な温度変化が血圧に大きな影響を与えることはすでによく知られているが(=ヒートショック)、住まいの室温自体が変わることで住む人の血圧がどう変化するのかということについては、どのくらい知られているだろうか。
スマートウェルネス住宅等推進調査委員会では、改修前後の居住者の血圧や活動量等、健康への影響を2014年~2019年にわたって調査し、それ以降も追跡調査を継続している。
2021年1月26日に開かれた「住宅の断熱化と居住者の健康への影響に関する全国調査」の第5回報告会で報告された知見の1つが「断熱改修の前後で、朝の最高血圧・最低血圧が有意に低下する」というものである。
分析結果は下記のとおり。
ベースラインの血圧、年齢の変化量、BMIの変化量、外気温の変化量を多変量解析により調整し、血圧の変化量を試算。それを断熱改修前の平均値と比べたものである。
※住宅の断熱化と居住者の健康への影響に関する全国調査「第5回報告会」資料より
起床時の最高血圧で3mmHg以上、最低血圧で2mmHg以上も下がっていることがわかる。
また、非常に興味深いのが「属性」別の違いである。
年齢や性別の違いの他、喫煙する人・しない人、飲酒習慣のある人・ない人、などいくつかの属性による差が明らかにされている。
これによると、いわゆる「循環器疾患のハイリスク者」ほど、断熱改修による効果が大きく現れているということがわかった。
※住宅の断熱化と居住者の健康への影響に関する全国調査「第5回報告会」資料より
まず第一に高血圧で通院している人とそうでない人の差が非常に大きく、高血圧を患っている人は断熱改修により7.7mmHgも最高血圧が低下している。
また、65歳以上の高齢者では65歳未満の方よりも血圧の低下量が大きく、断熱改修をすることで大きな恩恵を受けていることがわかった。
その他の属性で見ても、軒並みハイリスク者の改善メリットが大きい。
断熱改修の意義が力強く示された研究成果だろう。
今回は紹介できなかったが、「室温が安定している住宅では血圧の変動が小さい」ことを示すいくつかの研究成果も発表されている。
室温と血圧との関連については、今後さらに多くの知見が得られていくことが期待される。
今、“高血圧予防”という点では、食事や運動、飲酒、喫煙といった生活習慣が重視されているが、今後、この「室温環境」というものの影響が高く評価される日も近いのではないだろうか。